公開記念イベント「愛してよ 映画講座」

1月6日 『愛してよ』トークイベント
「愛の演技論講座 ~役者だって愛されたい~」

1月6日 18:40~ シアターイメージフォーラムにて
ゲスト:西田尚美&松岡俊介 × 福岡芳穂

福岡 「(客席に)皆さん今日はどうもありがとうございます。えー、この映画は12月の17日から公開してるわけですけど、で、17日の初日には私も松岡さんも、出演してる子どもたちもみんな舞台挨拶ということでこちらに並んだんですが…なぜか主演の西田尚美さんがそのときいなくてですね(笑)…どこに行ってたんでしょうか」
西田 「(苦笑)」
福岡 「皆さんも気になってると思うんで」
西田 「(客席にお辞儀)初日に舞台挨拶来れませんで申し訳ありませんでした…(福岡に)私も来たかったんだよ。来たかったんだけどさー…」
松岡 「で、どこに(場内爆笑)」
西田 「海の外」
松岡 「あー海の外」
福岡 「で、何をしに」
西田 「新婚旅行に行ってました…(客席からの思いがけない大きな拍手に頭を下げる)」
松岡 「一生に一回だからね、しょうがないよね」
福岡 「よかったね皆さんから拍手がいただけて」
西田 「温かい人たちでよかったー(笑)」

福岡 「で、今日のテーマはですね、『役者だって愛されたい』ということなんですけど、これにはちょっと理由がありまして。えー、映画とかの撮影というのは、例えば同じシーンの中で、こっち側を撮って、今度逆向けを撮ったりするときに、カメラが向いてないほう、つまりそのときに映ってない方の役者はちょっとお休みみたいなやり方をすることが多いんですが、僕の場合はカメラが向いていなくても常にそこに全ての役者さんがいて芝居をするというやり方で…。しかも今回の『愛してよ』の場合は西田さんの子ども役の塩顕治クンには台本を渡してなかったりしたもんで、どうしてもその新鮮な動きを先に撮りたいということで、彼の側を優先してしまうことが多くて…まあ西田さん、ずっとそんなつらい状況に耐えてくれてたんですけど、さすがに最後の方になると突然現場でキレましてですね(笑)ワタシはいったいどうなるのよ!ワタシの気持ちは!と…みんなこっちを見て!と…」
西田 「(笑いながら頷く)」
福岡 「で、まあ一回こういう場を借りて謝っとこうと(笑)役者だって愛されたいよねということで(笑)」
西田 「撮らせたよね、最後には(笑)最後はカメラ向けてくれましたよね監督、最後の最後のシーンは」
福岡 「最後の最後って言うなよ(笑)」
西田 「最後の最後だよ(笑)やっとあそこで初めて不満をぶちまけたから。それまではホントに耐えてた。しょうがない大人だしって(笑)」
松岡 「それも演出ですよね監督」
西田 「俊介は大人だからさー」
松岡 「別に顕治のほうが可愛かったってわけじゃなくてあくまで演出上の、ね」
福岡 「そうそう僕はもう皆さんを愛してますよ、常に(笑)」
松岡 「うんそう感じました(笑)ホントに」
福岡 「まあ演出と言えばそうなんだけど、そういうのってやっぱり役者としてみればストレスが溜まったりするものなんでしょうか。たとえば今回みたいに顕治が台本を読んでない、でそのときの状況に入っていってその中でつくりあげていくみたいなことだったんで、テストも何回もできないわけですよね、繰り返すとどんどんなんか大事なものが失われていく気もしたので。だから松岡さんの長―いシーンでもテストはほとんどやれずに、とか」
松岡 「いや、ストレスはないですよね。なんかこう…できたときにはゴールがあって、OKくれるんで。ただそのやる前はなんていうか、寝れない感じはありますよね。自分が失敗したら身も蓋もないっていう(笑)見えないプレッシャーはありますよね。自分はいつも成功しとかないと、足ひっぱっちゃうみたいな…それによって顕治が慣れちゃったら、ねホントに、身も蓋もないっていう…。でもOKをいい顔で出して貰えるんでこっちとしてはそのときにああ良かったっていう解消はできてくるから、ストレスが溜まってくっていうことはなかったです。…ただまあクマはつくってましたね、みんな(笑)僕ら役者の方は」
西田 「そう、緊張感を持って現場に臨んでいたので…ホントどう出るのかわからないから、顕治が。だからすごい緊張したし、なんか、私がアドリブを失敗してね、全部がヘンなふうになっちゃうとかそういうのもあるわけだし。楽しみでもあり、怖くもあり…すごい緊張感だった、現場では。…最後のシーンのところは緊張しすぎて私も倒れそうだったんだよね。だから多分監督に…(小さな声で)あの、私は…って言っちゃったの」
福岡 「そんな声小さくなかったから(笑)屋上中に響き渡ってた西田さんの叫び声が」
西田 「言ってないー(笑)」
福岡 「すみませんでした」
松岡 「ホントに監督、要望はいっぱい言ってくれるんですよね(笑)ちょっと顕治こっちに座りたいよねとか、それは僕に対してそっちに座らせて欲しいみたいなことを言ってるんだみたいなとか。でも向こうは台本を見てもないんで、というか見ても座るとも書いてなかったりするわけですよ、で、テストはないよ、みたいな(笑)ニコニコしながらどんどんどんどん積み重ねてくる感じなんですよホントに(客席に訴える)…それは僕らの地を出すとか、さらになんか演出プランがあったりなんかして、僕らは踊らされてたとか(笑)」
福岡 「いやいや…あの…(笑)」
松岡 「でもホントになんか、野村祐人と僕が一緒にいたときの顕治の顔とか、カメラ回ってないときまでフツウになんか複雑な顔してるし。オフショットも面白かったですよね」
福岡 「祐人がかわいそうだったね。撮影アップするまで彼の中で、自分は顕治に嫌われなきゃいけないんだっていうのがあったから」
西田 「その割にはサッカーボールとか買い与えてたじゃん(笑)」
松岡 「だけど報われないんだよね(笑)」
西田 「そうそう報われないんだよ(笑)」
福岡 「祐人の中では、あーオレは買い与えるだけの役割なんだとかってどんどん落ち込んでた。最後はだから祐人のほうが泣きそうだったもん」
西田 「アップの日ね。でも顕治も泣いてたもんね」
福岡 「あ、このお兄ちゃんは悪い人ではなかったんだみたいな感じで、二人で肩を抱き合って泣いてましたけど」
松岡 「…へー…」
西田・福岡 「(松岡を見る)」
松岡 「…何ですか何ですか」
西田 「へー、ってちょっと淋しそうだったよ」
松岡 「いや、いい話だなーって思って(笑)」

福岡 「さっきの話だけど、役者に地を出してくれとかってことじゃないんだけど、なんかこう、あるじゃないなんか、空気とか」
松岡 「うん」
福岡 「それぞれの役を誰がやるかによって絶対変わってくるわけで。あの母親や父親の役を西田尚美や松岡俊介がやる、それによってその存在っていうのはまったく変わってくるわけで、別に俺が演出したからっていつも同じ形になるとは思ってないし。そういう部分を俺が見たいしお客さんに見せたいっていうのはあるよね…そういう意味でこれだけ素晴らしいキャストの皆さんに集まっていただいて、たいへん幸せだったんですけど(笑)」
松岡 「なんかホントに監督の意志に沿おうとかそういう余裕はやっぱり本番中全くなかったし…そういう、演じる上で邪魔かもしれないようなものがなかったと言うか、そういう感じはありましたね。向かう場所がはっきりしてたと言うか」

福岡 「(客席に)でもたいへんなんですよ。西田さんはホントにとっても素晴らしい感性豊かな女優さんなんですけど、どっかで子どもより子どもみたいなところがあるんで(笑)さっきも最後だけキレたって言ってたけど」
西田 「監督からすればきっと常に、なんだよね」
松岡 「俺んときも一回あったぞ、みたいな(笑)さっき心の中では思ったけどでも最後だけって言ってたからあれは入ってないんだって思ってました(笑)」
西田 「あー、船のとこだ、あれは入ってないっていうか、数えてたわけじゃないけど、でもそうだよね」
松岡 「うん」
西田 「あのときもそうだ駄々こねたんだ私。わかんない、わかんないよ、って(笑)そういうのがね、どうやってぶつけたらいいのかわからないの。でもぶつけてるんだよね」
松岡 「うん」
西田 「(二人に頭を下げる)すみませんでした(笑)でもあの船のシーンは楽しかったですよ。わからないなりにこう、模索しながら俊介とやって」
松岡 「そうだね。本番で突然船内アナウンスとかもあって」
西田 「そうそう!」
福岡 「あー、あれはウチの助監督がやったの」
松岡 「打ち合わせしないで急に本番中にそんなびっくりさせるようなこともやったりするわけですよ。それだけいろんなこと背負わせて本番やらせてんのにさらにそんなどきどきするようなことをやるという、ホントにひどい男で(笑)」
福岡 「いや生きてればいろんな状況があるじゃないかと(笑)思ったようにはなかなか人生進まないじゃないかと、そんな中でどきどきしながらみんな生きてると」
松岡 「日本映画はそういうもんですよね(笑)」
福岡 「だからと言って、さっき松岡さん仰ってたけど、僕らの手の上で踊ってるだけかっていうとそれはそうじゃなくて、二人からいろんなアイデアも出るし、二人の言うことやることから非常にこっちがインスパイアされて映画そのものが変わっていく、変わっていったっていうことも結果的にはすごくあって。西田さんはひとりの母親であり女性の日常として常にそれを見せてくれたし、あとパンフレットにも書いてあるんだけど松岡さんについて言うと、最初オファーしたときには自殺する役は嫌だっていうふうに言われて、当然、死っていうものを軽はずみに扱ってはいけないし特に今回の映画の中ではまさにそういうことがテーマのひとつでもあるんで、もう一回そのとき僕らの中でも再度深く考え直し表現の中に生かそうとしたようなことはあった。あと松岡さんのアイデアの中で、あの、タバコ二箱っていう…」
松岡 「死なない…死を予測してない感じ…」
福岡 「あれはすごい大きかったよね」
松岡 「それもだからその、発作的に死ぬっていうのを表わすので何を足すのかっていうところの話ですよね、で、タバコ二個買いしとけばそのタバコだけですごいその、ね…」
福岡 「あ、まだご覧になってない方もいらっしゃるんで」
松岡 「あ、そうだったんですね」
福岡 「(客席に)それちょっと、タバコ二個って覚えといてください。どっかでタバコ二個っていうのが出てきて、それは彼のアイデアで、それがあるかないかで非常に違う。今回の撮影の柴主さんもいま日本で一番忙しいキャメラマンですけど普段そんなに単純に「モノ」っていうのは撮らなかったりすると思うんですけど、そのタバコ二個っていうのは人間の存在と同じだよねとかって言いながら撮ってたりとかしてた」
松岡 「はー(頷く)」
福岡 「そういうふうに映画全体を役者が…」
松岡 「いやだから何が何でも子どもに死ぬとこを見せるっていうのを前々から考えてる男っていうふうにはしたくなかったっていうことですよね。ホントに何がなんでも。うん。そう思いました」
福岡 「…そういうのがあるんですね、ホントにけっこう。だから常にこう、一緒にものをつくってるっていうか、そういうふうに思えたらいいなっていうか」
西田 「思えてましたよ」
松岡 「だからこの1月6日に来いって言われたら来るわけじゃないですか二人して(笑)」
福岡 「二人とも実はプロデューサーから正月にメシを食わせるから来ないって誘われたらしいです(笑)」

福岡 「宣伝部さんの書いてくれた質問。役者として一般的に、監督に愛されたいか、って」
西田 「愛されたい」
松岡 「そうですね、褒められてなんぼなんで」
福岡 「…あ、終わっちゃった(笑)」
西田 「愛されたいでしょう」
松岡 「ホントね追い詰められると僕ダメなんですよ」
西田 「褒められて育つタイプだから(笑)」
松岡 「ヘンなふうにぎゅーぎゅーってやられちゃうと失敗しちゃうんですね。映画がディスカッションできて…なんかそういう…そっち方向の愛、まあ全部に愛はあると思うんですけど、うん、こうきゅっと一丸となってやっていく方向で映画つくるのが好きですね、そういう意味では愛されたいです」
福岡 「去年ちょっと松岡さん、一時期役者お休みみたいな時期があったと思うんですがそういうのも関係あった…」
松岡 「急にふられましたね(笑)うーん…なんか否定しててもしょうがないんでやめちゃおっかなーみたいなところはあったんですけど。あの…誰かの代わりみたいな世の中ばっかりじゃないですか。誰がダメだったら次誰でその次だったら誰みたいな決め方をしていったり、何を前提でものをつくってるのかっていうのが、もうほとほと嫌になったり、まあでもこういう現場があればまたあーそんな捨てたもんでもないなって思えるわけですけど。うーん、だからなに前提でつくってんだってお前が文句言うんならお前去れって、自分で思ったりなんかして、まあそんな動きしたりしてんですけど。まあ筒井康隆の断筆宣言みたいな(笑)したところで文壇はみんなシカトみたいな(笑)でまた戻っちゃえみたいな(笑)まあそんなぐらいなもんですけど、でも筒井康隆は愛してます(笑)…なに言ってんだろ」
西田 「そういう時期があったんだ」
松岡 「いつもそういう中にいたりなんかします」
西田 「なのに来てくれたんだ」
福岡 「うん」
西田 「脅しって怖いね」
福岡 「脅して来てもらってるわけじゃないから(笑)まあその間、西田さんはこう幸せな道を一歩一歩上がってたわけですよ」
西田 「幸せだかどうだかしらないけど(笑)」
松岡 「そんなこと言うなよ(笑)今日ケンカでもしたんですか」
西田 「いやしてないですよ、大丈夫ですハイ」

会場より質問 「監督に、ホンを書くときから、西田さんとか松岡さんにアテ書きするとかってあったのかということと、西田さん、お母さんっていうのは役者としてはあるかもしれないけど私生活ではないわけだからご苦労があったとしたらそれを。見てる分にはいつもの西田さんらしさは出てたんですけど」
福岡 「キャストというのはそんなに早く決められるものでもないので、アテ書きということではないんですが、たださっきも言いましたように彼らと一緒にやれるとなった時点でいろいろ話し合ってそれがホンの直しに影響したり、彼らには彼らの表現というものがあると思うので、それを生かすように直していったというのは確かにあります」
西田 「『愛してよ』を撮ったこの頃からぽつぽつとお母さん役が増えてきまして。でもこの映画みたいに10歳の子を持つ母親というのは初めてで、大丈夫なんだろうかって思ってたんだけど、でも監督もそういうところは、いや大丈夫だよーって褒めて迎え入れてくれたっていうのもあって。まあ若いお母さんもたくさんいるし、いろんな、ホントにいろんな人が世の中にはいるじゃんっていうところでホンを読んで、こういうお母さんでもいいかなっていうのを自分なりに考えて役を受けてやらせてもらったんですけど」
松岡 「すごいでもぴったりハマってたよね。本当。西田流の感じが出てて」
西田 「そうかなー」
松岡 「うん、出ながらちゃんとお母さん、って」
質問者 「ホント良かったです」
松岡 「ホント良かった」
質問者 「ダメなお母さんなんだけど最後は…」
西田 「シーッ!まだ観てない人もいるから(笑)」
質問者 「ありがとうございました」
西田 「(笑)ありがとうございました」

この後、会場のお客さんへのプレゼント。ゲストにジャンケンで勝った人たちに、ゲスト
サイン入り『愛してよ』Tシャツ&台本が渡されました。

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